초록 close

本稿では、朝鮮資料における日本語学習書、特に捷解新語の現存する三種の刊本及び『朝鮮板伊路波』、『倭語類解』におけるサ行・タ行のウ列音「ス」「ツ」を中心に、ハングル音注に見られる規範意識の実態を厳密に調査・考察をしてみた。その結果、朝鮮資料におけるサ行・タ行のウ列音「ス」「ツ」だけが、朝鮮板伊路波および捷解新語原刊本では、円唇母音「ㅜ(u)」 を用いて転写されているのに対して、『捷解新語』の改訂版である改修本、重刊本と『倭語類解』などでは、非円唇母音「ㅡ(ɯ)」 として、ほとんど統一した表記が用いられていることが指摘できる。また、和語及び舌内入声音「ツ」表記のハングル音注について、まず、和語「ツ」は『捷解新語』原刊本では「주(cu)」 が用いられ、改修本以降、『倭語類解』においては「즈(cɯ)」 のように、ほとんどが単書(平音)が用いられているが、語によって「쭈(c'u)」「쯔 (c'ɯ)」 のように、並書(濃音)が用いられていることが明らかである。和語「ツ」に並書表記「쭈(c'u )」「쯔 (c'ɯ)」 が用いられている例は、和語全体の「ツ」表記の数からみると、ごく少数で、『捷解新語』『倭語類解』におけるほとんどの用例は、時候や序数詞などの語に限られていることが分かる。一方、舌内入声音「ツ」におけるハングル音注は、基本的には並書(濃音)「쭈,쯔」 , (c'u,c'ɯ)が用いられ、和語において単書(平音) , 「주,즈」(cu,cɯ)が用いられていることとは対照的である。舌内入声音においては口語体(第一第九)では, 「쭈,쯔」(c'u,c'ɯ)、文語体(第十)では 「-ㄷ(t)」「-ㄷ즈 (t cɯ)」 ,「쭈,쯔 」(c'u,c'ɯ)のように複雑に転写されるが、場合によって、舌内入声音でも和語のように単書, 「주,즈」(cu,cɯ)として用いられる例がみられる。以上のように、朝鮮資料におけるサ行・タ行のウ列音と和語及び舌内入声音「ツ」表記のハングル音注にみられる変化は、主に『捷解新語』の原刊本から改修本への改訂の過程で行われており、朝鮮資料におけるサ行・タ行のウ列音、和語及び舌内入声音は、場合によっては過度の規範性・統一性に基づく音注を用いたこと、また、一方で、時にその規範性・統一性に破綻を生じているものと解釈できる。