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大江健三郎の『万延元年のフットボール』は、「万延元年(1860)」から「安保闘争(1960)」に至るまでの時間的な背景を持っている作品であり、神話的な構造を持つ歴史小説として評価されている。この作品は主人公である「根所密三郎」と「根所鷹四」の二人の兄弟における葛藤と対立が主な内容を成しているが、そのためか、先行研究の多くが、二人の男性に重点を置いていた。しかし、脇役でありながらも、作品の中に登場する女たちの役割は見逃せないと思われる。その意味で本研究は既存の研究の視点から離れ、作品における女性たちの在り方を明らかにすることにその目的がある。中でも、作品の全体にわたって重要な位置を示す密三郎の妻「菜採子」や、「ジン」という二人の女性を中心に作品分析を行った。その結果、「菜採子」は密三郎と鷹四との間に居ながら、対立する彼らを和解の道へと導く役割をしていたことが分かる。また「ジン」は、絶対的な存在と村共同体の間に居ながら贖罪羊(スケープ・ゴート)として犠牲になる象徴的な人物である。このように作品における女性は、対立する人間の間で、あるいは絶対的な存在と人間共同体との間で仲介者として存在しながら、和解や共生、期待へと導く役を担当していたと言えよう。本研究を通して作品における仲介者としての女性像を明らかにすることは、作者大江の女性観を知る上にも意義があると思われる。