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歌人が登場する作品には、まず典拠があり、それに付け加えられた作者の想像力と意図によって主人公の性格と役割が決められる。中世の有名な歌人である定家を現代のストーカーのように設定したのも「忍恋」を描くための作者の想像力の産物である。「蟻通」は、貫之という歌人を通して作者の信念を描き出した作品で、和歌の効用をテーマにしている。和泉式部を主人公にした「誓願寺」は、『誓願寺縁起』の内容を新たに構成したものだが、式部を極楽の歌舞菩薩に描くことで阿弥陀菩薩の支配する極楽と和歌とを成仏の因縁として取り上げている。これは和歌と仏道の一体化を図る試みであろう。 作品のテーマによって、登場する歌人の様子は実際とは異なる様子として展開される場合もあるが、これは劇作法によることである。『三道』では「種」に関する説明の中で「その態をなす人体にして、舞歌のため大用なる事を知るべし。そもそも遊楽体とは舞歌なり」と言っているが、これは主人公の歌舞への影響が大きいことを意味する。同時に詩劇という観点から考察すると、詩的な文章と連歌的なレトリックは、音楽とともに演技される能ににおいては欠かせない要素である。なお、歌語引用や和歌説話、歌人の登場は詩的な世界を一層浮き彫りにする手段であるとの認識があったので、歌人の登場は欠くことのできないことであったろう。