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『浮世風呂』と『浮世床』の人物の比較により、両作品の人物造形の差異及びその意義を考察するところに本稿の目的がある。従来の研究は『浮世床』が『浮世風呂』の形式と人物造形を踏襲したとされるところにとどまっているが、本研究により『浮世床』の人物は前作の共通類型人物より類形性を脱し、周辺人物と融和していることが分かった。 第一、床屋の主人である鬢の性格は『浮世風呂』に登場するばんとうより積極的であった。鬢のこのような性格により他人との多角的な会話が可能になり、その様子は融和的だと云える。第二、『浮世床』の上方の人物作兵衛は『浮世風呂』に登場する上方の人物けちより理性的で融和的である。第三、知識人の類型に当てはまる『浮世床』の孔糞と土龍も知識人としての威厳は薄められ、他人との会話の中でより融和的な存在として描かれていた。第四、対立関係にある類型人物もやはり他人と融和的であり、目立った内面的個性を持っているとは言難い。 以上により『浮世床』の人物は『浮世風呂』の人物より一層融和的でその類形性を脱していたが、一方で個人としての目立った個性を持っているとも言難い。むしろ比較の対象になった『浮世床』の人物は期待される類型性は持たず、周辺人物と融和的ではあるが個性を持たない共通性を持っていると言えよう。したがって彼らは新しい類型人物として考えられる。これは、社会倫理に反したり問題をもたらした先行気質物の人物とは区別されるが、まだ個人としての自我を表出できない江戸後期の人物像を繁栄しているものと考えられる。