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「ほめは鯨も踊らせる」という本があるように誰かに好意的な判断や意見 を述べる「ほめ」行動は人を喜ばせ、人間関係においても潤滑油の役割を果たす肯定的な言語行動に違いない。しかし、好意的に行った「ほめ」が言語社会ごとに長い間形成されてきた社会的なルールに違反した場合はむしろ人間関係に悪影響を及ぼす否定的な面もある。たとえば、相手に対する皮肉っぽい「ほめ」を相手が認識した場合は人間関係に深刻な影響を及ぼすことがある。 一方、ほめられたときの返答においても簡単に受け入れてしまうと自分 の意図とは違い、生意気な人に見なされることもあり、逆に否定しすぎるとほめ手を戸惑わせて不要な誤解を招く場合もよくある。特に、謙遜の美徳が他人に対する礼儀とされている日本人と韓国人が欧米人と会話をするときはこのような誤解が生じる可能性が高い。したがって、対人意識や言語行動文化が異なる人間同士で行う異文化間のコミュニケーションでは 「ほめ」に関する語用論的あるいは社会言語学的な知識が必要になる。 本稿ではこのような「ほめ」行動の特徴を踏まえ、2006年11月から12 月の間に日本の大阪地域に在住する日本語母語話者348人(男性125人、女性223人)と韓国のソウル地域に在住する大学生321人(男性188人、女性133人)、合計669人を対象にアンケート調査を行ったが、その内容をまとめると、以下のことが示唆できよう。 (1)「外見」に対する言及が韓国では私的領域に属する話題ではないが、 日本では私的領域に属する話題であることがわかった。   (2)日韓共に「能力」に対するほめの頻度には男女間で差が見られない が、「外見」に対しては女性が男性よりよくほめる点で一致する結果になった。 (3)韓国の男性と日本の男女は相手の「外見」より「能力」をよくほめる点 で一致しているが、韓国の女性だけは能力よりは「外見」に対する「ほめ」の頻度が目立って高い結果になった。 (4)男性は相手の性よりは上下関係を優先的に考慮する傾向があるのに 対して、女性は相手との上下関係よりは相手の性を優先的に考慮する傾向があるようである。