ABSTRACT
平林たい子は関東大震災直後の1923年に日本を離れ,夫の山本虎三と共に当時日本の植民地であった中国・大連で生活することになる。その翌年、虎三は線路破壊テロを謀議した容疑で拘束された。たい子は施療病院で女児を出産したが、栄養失調のため死んでしまった。この大連でのみじめな体験が『施療室にて』の背景になっている。本稿では、『施療室にて』に現れたジェンダーに埋没している<私>と、自分の産んだ子供の重苦しい死によって社会闘争へと向かう無産階級運動者としての<私>に対して考察を行った。<私>の夫は下層労働(coolie)争議を指導し、テロを計画したことで収監され、馬鉄公司で仕事をしていた<私>も、共犯として出産後ただちに収監されることになっている。しかし、<私>は自分の意志を無視して、テロに失敗した夫に対して何の批判も行わない。それどころか逆に夫の行動に対して正当性を与え、夫の意思を無条件に尊重し従わなければならないというジェンダーに埋没した女性の立場を取る。一方では、夫を同志と看做そうと努力する二重性も見せる。また、<私>は施療病院で出産した赤子に、脚気を患う自分の母乳を飲ませて死に追い込んだ。どんなに切実に望んでも、牛乳を手に入れられない劣悪な社会構造が作品の背景に敷かれているが、そこには母性より思想を優先している<私>が見える。それは、赤子を死に追いやった社会に対する反抗心と反発心によって、自分の思想的反騰を突出させていると思われる。その上、<私>は社会の底辺に敷かれている深刻な不条理を広く訴えるために、一般の人たちよりは奉仕の精神を美徳と
KEYWORD
Gender, Resistance,、Motherhood, thecharity hospital, Beriberi
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